2011 07 << 12345678910111213141516171819202122232425262728293031>> 2011 09

木賊温泉・井筒屋の秋景

お気に召せば下をClick!


木賊温泉・井筒屋の半露天風呂から傍らを流れる西根川と共同浴場を見る。これが絶景である。新緑も冬もすばらしいに違いない。
(「日本秘湯を守る会」から厳選)


にほんブログ村 旅行ブログ 温泉・温泉街へ にほんブログ村
にほんブログ村 旅行ブログ 秘湯・野湯へ にほんブログ村

第5章 木賊温泉・井筒屋の秋景
ホームページ
2009.10.17-18

5.1 はじめに

 塩原温泉から奥深い山々を抜って一時間半ほど快調に走る。木賊(とくさ)温泉・井筒屋は福島県南会津の山奥、田代山の北側にある。近くには尾瀬があり檜枝岐村(温泉)から近い。山奥の秘湯である。際立った特徴が打ち出しにくいのか、とても有名という訳ではない。

 しかし、秘湯フリークがあえて冬に訪れる、知る人ぞ知る穴場である。私が訪れたのは10月であるが、息をのむ風景に出会い、そのことをどうしても伝えたくなったのである。また、風景だけでなく、後半では、この地方に残されているものについてふれる。

・晩秋:井筒屋・半露天風呂から、共同浴場を望む。あまりの美しさに茫然と立ちすくんでしまった。向こうに見えるのが共同浴場である。この写真の不思議で幻想的な構図がなぜ生まれるかについては後で述べる。


DSC00916_convert_20110827123810.jpg


5.2 井筒屋のロケーション

 井筒屋は西根川の左岸(上流から見て左手)の崖に建つ。「ひなびた」と言いたいところだが、宿の入り口はなんの変哲もない。しかし、階下に降りて行った風呂は(私の尺度で)秀逸である。

 露天風呂ではなく言葉の定義上「内風呂」となっているので、「露天」風呂が好きな人は、行きたい秘湯のリストからはずれてしまうであろう。しかし、この風呂は事実上、半露天風呂という気持ちになる。

・ 右下の小屋が半露天風呂。川のすぐ横にせりだしている。川の水が満々と貯まっていて水が圧倒的に透明である。
DSC00902_convert_20110828141842.jpg


・ 上流側を見るとうっそうとした森の渓流から清透な水が流れてくる。
DSC00908_convert_20110828150403.jpg


・ 露天風呂の窓は冬以外には開け放たれている。内から見ると川とほぼ一体に感じる。
DSC00912_convert_20110828141948.jpg


・ 湯船は大きくはないが新鮮なお湯が注がれている。湯質は肌によい。ここに浸って渓流のせせらぎを聞き、紅葉を眺める。
DSC00907_convert_20110828142126.jpg


・井筒屋の150mほど下流には共同浴場がある(最初の大きな写真に映っている)。ここから、逆に上流を見ると右手上に井筒屋が見える。この共同浴場はよく知られていて多くの人が立ち寄る名所になっている。やや熱めのお湯である。
DSC00894_convert_20110828142240.jpg


・この辺りの水もさわやかである。火照った体を冷やしても良い。スイカのようなものだ。
DSC00895_convert_20110828150310.jpg



DSC00893_convert_20110828155713.jpg


5.3 池ができるわけ

 さて、共同浴場から井筒屋に戻って再び共同浴場を見る。なぜか満々とたたえられた池があり、その上に共同浴場が浮かび上がっている。

・ 水面には周囲の紅葉と青い空が映っていて幻想的である。鏡のように周囲の風景を映している。紅葉の盛りより少し早めだったが、あと一週間後ならなお一層すばらしかっただろう。
DSC00914_convert_20110829215132.jpg

 水がたまる場所はなさそうに見えるだが、なぜ、ここが池になっているのだろか。次の写真をみると謎が解ける。川を横断して石の堰(せき)が作ってある。

 つまり人工的に川が堰き止められ池となっていた。このため、右上の半露天風呂から下流側をみると、先ほどのような風景が出来上がる。周囲の森の紅葉と青空が美しい。

DSC00898_convert_20110828150704.jpg


5.4 散策してみて

 ここから後半は温泉から少し脱線する。温泉と平行して、日本の山村を象徴することについて触れたいからだ。最初はキノコである。南会津地方はキノコが豊富である。途中で見つけたキノコを紹介する。

・ ブナシメジ:街で市販されているものとはかなり違う
DSC00876_convert_20110828150736.jpg


・ チャナメツムタケ:傘がひらいたものである
DSC00880_convert_20110828150806.jpg


・ ナメコ:幼菌に近い
DSC00873_convert_20110828150833.jpg


 この辺りはキノコが豊富なのだろう。秋に収穫し塩漬けにしておけば保存がきく。いくら食べても太らないヘルシー食材である。キノコを育む山は紅葉まっさかりで、全山が燃えているようだった。

・ 木賊温泉から檜枝岐に抜ける道にて
DSC00923_convert_20110901204433.jpg

・湯の花温泉のしらかば公園にて
DSC00883_convert_20110828150922.jpg


5.4 前沢曲家集落

 木賊温泉から西根川を下り、352号線を右折すれば、道路の右側、川の対抗側に「前沢曲家集落」(「前沢集落」と略称する)がある。「前沢」は「まえざわ」ではなく「めーざわ」と言うと地元の人に聞いた。

 ここには、世界から取り残されたような集落が残っている。そのような言い方は住んでいる方に失礼であるが、普遍的なものが残っていると感じたのである。

 福島県もさらに北へ行けば「大内宿」があり、こちらは規模も大きく観光地化し、その分、シーズンには混雑と渋滞が日常化しているようだ。前沢集落の方はいかにも地道であり、混雑とは少し距離をおいている。

 人を多く集めれば集めるほど評価の高くなる「観光」という「ものさし」とは一線を画して、よい意味で時間を止め、まだ、日本人が誇りを持っていた時代を生きているようだ。


・ 山に抱かれた前沢集落:小さな独立したコミュニティが残っている。
DSC00958_convert_20110829215210.jpg


・集落内の民家
DSC00941_convert_20110828155324.jpg


DSC00943_convert_20110828155348.jpg


・藁葺きの家が多い
DSC00942_convert_20110828155759.jpg


 話は飛ぶが、イギリスにはコッツウォルズ地方がある。ここには石造りの集落が多く点在し残っている。イギリス人は古いものがいかにも好きで、古い街そのものを大切に保存している。茅葺きの家も多い。延々と続く丘陵に、小さな集落が点在して残っている。

 石は「飴色」と表現される「くすんだ黄色」で、その色合いがよい。イギリスでは牧畜をするために、森を伐採してしまったから木材は手に入りにくい素材ではなかろうか。逆に石が重要な素材となっている。

 コッツウォルズ地方には世界中から観光客が訪れているが、前沢集落も大内宿もコッツウォルズ地方に負けない資質があると思う。前沢は日本であるから「石」ではなく当然「木」が主役になっている。持続可能な森林から再生可能な木材が生産されている。木造の家が石に負けずに何百年と生きている。

 おそらく前沢では若者は都市に流れ、高齢化が進んでいるであろう。若者が魅力を感じた「都会」が逆に、今魅力を感じているのが、このような「古き良き」と言われる日本である。

 観光シーズン中の大内宿の雑踏を考えると、前沢集落だけでなく、多くの山村に光が当たってよいと思う。この思いは単なる懐古主義かもしれないが、間伐材などのバイオマスを利用した自立型コミュニテーにならないだろうか、と夢想してしまう。


5.5 「水」について

 前沢集落の入り口に下の写真の小屋があった。水車があれば「水車小屋」と呼ぶべきだが、前沢集落でなんというのか失念してしまった。

・ 藁葺きの東屋のようだ
DSC00950_convert_20110828155416.jpg


・横から見る添水(そうず)であった。
DSC00948_convert_20110828155454.jpg


・さらに回り込むと、確かに添水唐臼(そうずからうそ)であった。(東屋の中では臼が杵でつかれていた)
DSC00949_convert_20110828155849.jpg

DSC00954_convert_20110901204515.jpg

DSC00952_convert_20110828155531.jpg


 添水(そうず)とは、流水を竹筒に導き、水がたまる重みで筒が傾いて水が流れ出し、軽くなった竹筒が跳ね返るときに石を打って音を出すようにしたものである。いわゆる「ししおどし」である。これは元々は鳥獣をよける目的であったが、昔の都会では音を楽しむようになったものである。

 竹筒を木枠に替え、多めの水を入れ、上下動で杵を使って製粉や脱穀する装置が「添水唐臼」(そうずからうす)である(英語ではwatermill)。古くは中国で2000年前から使われていて、ブラジルにも同じものがあるそうである。日本では「バッタリ」などと呼ばれるそうであるが、名称は地方で異なっている。

 実は宮崎県・椎葉村の山奥に同じものがあった。椎葉村では名前は「サコンタロ」と呼ばれていた。「里に住む太郎」という若者が発明したものだと聞いた。文書によれば、「サト」とは「谷」で「谷の太郎」と擬人化したと言われている。そばやひえを脱穀したのであろうか。

 ここ前沢集落でも山腹から引いた水を利用して、集落用の共同の製粉装置だったはずである。再生可能なエネルギーを利用したミニ工場である。石炭や電気がなかった時代には、日常生活用のエネルギーは木材や木炭に依存していた。今より不便であったに違いないし、そこまでは戻れない。

 しかし、エネルギー的には自立型のコミュニティーがあったのである。
 日本では山が急峻であるので、落差を利用したこのような装置が発明されたのだろう。イギリスの場合、豪雨が少なく平坦な丘陵地形であるので、川は定常的にゆるやかに水平に流れている。このため、魅力的な水車が多い(英語ではwaterwheal)。

 前沢集落に渡る橋の下を見ると美しい川(館岩川)が見えた。水量は豊かで透明度も高い。木が育つ国や日本ではあまりに普通の風景であるが、砂漠の国・中東にはクリークはあっても川一つ流れず、森はほとんどない。

 中国の北京や上海では水は滞留していることが多く、地方でも清流はまれである。日本の山村風景はグローバルにみるとむしろ希少な風景ではないだろうか。「地球の世界遺産」のようなものだ。


DSC00956_convert_20110828155626.jpg


DSC00938_convert_20110828155649.jpg


5.6 おわりに

 「秘湯感動紀行」での「木賊温泉・井筒屋」の話から、前沢集落の「紀行」の方にかなり脱線してしまった。コッツウォルズ地方や宮崎県・椎葉村を思い出してしまったからである。

 ここまでくると、そろそろお伝えしておいた方がよいと思うが、2−3年後に「秘湯感動紀行」とは別に「水感動紀行」を始めることができたらいいなと思っている。温泉と水は切っても切れない関係にあるだけでなく、これほど水のきれいな国はまれだと思うのである。大都会の中から湖や深山幽谷まで「水」の「紀行」をしたためられれば…

 井筒屋に話を戻すと、宿の方々からかざらずに、もてなしていただいた。食事は地場のものを使ったどちらかと言えば簡素なものであるが、温泉フリークにとってはそれで十二分である。散歩がてら川縁の野趣あふれる共同浴場を楽しむことができ、井筒屋では川端の半露天風呂に入り、渓流と紅葉を眺めていればそれ以上は何も必要はない。

 最後に残念なお知らせがある。3月11日の大地震の後、このお湯の温度が下がってしまった。現在は、女性の内風呂でなんとかしのいでいるとのこと。一日も早い復旧を祈念します。なお、共同浴場は従来通りであるので安心されたく。


温泉概略データ:55リットル/分、46度、pH=8.5(鶴の湯)、単純硫黄温泉(弱アルカリ性低張性高温泉)、溶存物物=355mg/l、内湯2
・なお、本文と写真は予告なしに改訂することがありますことご了承ください。
・文章と画像の著作権は著者にあります。許可なくコピー・転載できません。

ブログの全体メニューに戻る。(Go to Top page)
全てのレポートはこちら。(Go to All report)
English list : Japan secluded hot springs list (please click here)

.27 2011 温泉 comment2 trackback0