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秘湯フリークの聖地、乳頭温泉・鶴の湯。「鶴の湯の魔法」とは何か。(「日本秘湯を守る会」から厳選)
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にほんブログ村第2章 乳頭温泉・鶴の湯の魔法English Information :
TURUNOYU ONSEN
2009.8.13-14
2.1 はじめに
実はタイトルを最初は「鶴の湯の郷愁」とするつもりだったが、「郷愁」を「魔法」にした。各種のメディアに紹介されている宿の風情はまさに「郷愁」であるが、第一印象は「魔法」であった。秘湯フリークを魔法にかけて「ここで温泉三昧をどうぞ」という魔法である。もう一つの印象は、「こりゃ大人のディズニーランドだ!!」というものだった。子供はディズニーランドに行くが、大人は「鶴の湯」に行くべきである。
昔さながらの湯治場をそのまま再現し(というか先代経営者からのバトンを受け継ぎ)、どうみても映画のセットのようであるが、もちろん、100年以上前の建物がそのまま保存され使われている、そのことに驚く。人工的に作られた魔法の国ディズニーランドでは子供は魔法にかけられるが、ここでは、大人が鶴の湯の魔法にかけられ、自然の中の足下湧出・濁り湯に身を委ねるのである。
2.2 鶴の湯に入る
・鶴の湯の入り口、正面は有名な本陣である。
・霧に煙っている。霧はこころにも浸み通って潤いをあたえるようだ。
・夕刻が近づき雨のせいか早めに暗くなってきた。明かりが灯ってくる。
・雨に打たれた緑と、建物の黒と、オレンジ色の明かり、これらのコントラストが美しい。
・事務棟のあたり
・事務棟のあたりを露天風呂に向かって歩く。
・橋の下は清流が流れている。雨のせいか流れに勢いがある。
・橋の上には苔むした屋根がある。
・事務棟の前の橋を渡ると、向こう側の建物の中に男湯と女湯がある。
・左が男湯の黒湯/白湯、右が女湯
・橋から下流側を見ると混浴露天風呂の建物の一部が見える。この川のすぐ横に自噴する濁り湯の自然温泉があるとは信じがたい。
・混浴露天風呂に向かう路地に入る。
2.3 混浴露天風呂
・脱衣所を経てとうとう混浴露天風呂に謁見できた。このひなびた(ひなびすぎた)風情はどうだろうか。海外では絶対お目にかかれない世界である。自然の素材で作られたすべての構造物が昔のままに残されている。新しいもの、人工的なものときらびやかさが一切排除され、建物、露天風呂、緑の自然、それらが一体になっている。これが秘湯である。少し硫黄臭がするところは濁り湯の特徴であるが、それが「これぞ温泉」という気持ちになる。濁りの度合いもちょうど良く、抵抗なく入ってくる若い人も多い。大勢で入ってくる人も「ここでは、はしゃいではいけい」という圧力を感じているように皆が声を荒立てない。
・少し霧が晴れてきた。ランプの光が白濁した濁り湯に映って美しい。右のほうから「すすき」が覆いかぶさっている。このことは後でふれる。
・露天風呂にはランプがかけられている(電気照明であってはならない)
・二つある女性用露天風呂の一つ
・写真右上の岩の横からは少し熱めのお湯が足下からぷくぷくと湧き出ている。この近くに首まで浸っていると次第に魔法が効いてくる。
2.4 すすき
気持ちよく浸っている間に、鶴の湯の象徴(コンセプトと言ってもいいとさえ思うが)は「すすき」ではないだろうか、と思い至った。敷地内は通路から川端、露天風呂まで、いたるところに自然のままですすきが生えている。「すすき」は元々この一体に生えていたものである。この「すすき」がかつては人工的だった湯治場で、自分の居場所を見つけ、出しゃばりすぎず、しかし、可能な範囲で精一杯生きている。自分の横に別の雑草があれば、そこにも敬意を払って相手の領地に浸食せず自分の敷地内で控えている。
露天風呂には上の写真にあるように、「すすき」が覆いかぶさるように茂っている。「すすき」以外の雑草も多く、湯につかる人に自然の中にいだかれていることを強く感じさせる。「すすき」がほほに触れる、雨の中では「すすき」の穂から水が伝わり頭に滴る。この冷たさを、湯の中で暖まった体と心が感じる。心地よい、ここは自然の中だ、自分もその一つであると。
「すすき」たちは夏には青く茂り、秋には穂が白くふくらみ、冬には枯れて雪に埋もれる。しかし、春にはまたしっかりと再生するのである。少し感傷的になりながら、魔法にかけられいつまでも浸かっていることができる。
(注:「ススキ」と「オギ」の区別はよくわかっていません)
2.5 川と生け花
早朝に川を眺めた。雑草のようであってそうでない「すすき」やその他の草たち、川は少し人工的に整備されている。この空間は「動く水を従えた生け花」に近い空間のようだ。本来は「生け花」のほうが自然を象徴的に模倣して編み出されたものであるが、ここでは自然と一体化させた「鶴の湯空間」が一つの「生け花」のようでもある。生け花にも「花」を使わない生け花があるように、ここに「花」はない。鶴の湯には満開の花が似合わない。

2.6 おわりに
本題は「鶴の湯の魔法」から始めたが、実は「水と共にあるすすき」が主役だったのかもしれない。
日本の経済もふくめて、温泉は「享楽の時代」から「控えめな時代」にすでに移っている。高齢化してゆく人たちから若い人にバトンが渡されてゆく。皆がより豊かな生活を望んでいるが、豊かさの意味と質が変わってゆく。華美なもの、高価なもの、広い空間、豊富なエネルギー、求めればきりがない。
今の新興国では、かつての日本のたどってきた道を歩み始めているが、日本はすでに成熟した別の文化の国になろうとしている。日本がかつてヨーロッパを追いかけたように。日本は、これから求めてゆく価値観として、控えめで心は満ち足りたものを希求するだろうし、秘湯はその一つであるに違いない。「鶴の湯」の「すすき」をそれを象徴しているように思えた。冬の雪に閉ざされた鶴の湯はこちら。念願が叶いました。
乳頭温泉・鶴の湯の歴史について、同宿のパンフレットから少し紹介したい。鶴の湯は乳頭温泉で一番早く出湯し、寛永十五年(1638年)に秋田藩主・佐竹義隆公が湯治に見えたとの記録がある。当時は「田沢の湯」と呼ばれていたが、280年ほど前に、土地の漁師が、傷ついた鶴が病を癒しているのを見て「鶴の湯」と名付けた。現在の湯宿は元禄十四年(1701年)に始まり十三代引き継がれている。
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温泉概略データ:280リットル/分、39-60度、pH=6.1(鶴の湯)、含硫黄ーナトリウム・カルシウムー塩化物・炭酸水素塩泉、蒸発残留物=2530mg/l、内湯8、露天2
なお、本文と写真は予告なしに改訂することがありますことご了承ください。